空想高校野球

空想高校野球とは

「空想地図」「空想地図」という概念がある。
文字通り想像上の地図、有名なところでは今和泉隆行さんで空想地図をテーマとする著書なども出版されている。本物と区別ができないほど精巧な都市地図を公開されていて、空想地図と分かっていても、地図からはその都市の風景や雰囲気、また物語が浮かんでくる。

私も幼いころから地図に興味を持ち、そこに創作を加えていた。無から都市を作り出すことはあまりしなくて、例えば九州という実在の島の形を持ってきて、そこに空想の川を流すなど地形を作り、空想の道路や鉄道を敷き、実在の都市を参考にしながら空想の城下町を描き、門前町を描き、観光都市や宗教都市を描いて遊んでいた。こういう遊びは誰かに評価や理解をしてもらいたいと思う事はなく、家族や友人にも公表したことはない。むしろ役に立たない妙な事を熱心にやっているという視線が嫌で見られたくもなかった。

地図と同時に、高校野球にも興味を持った。1989年に父の母校が選抜高校野球大会に出場し、甲子園球場のアルプススタンドで観戦した事がきっかけとなった。高校野球とは都道府県対抗である。例えば、佐賀と愛媛のような普段なら交わることの少ない2県がそれぞれの故郷を代表して戦っているところに魅かれた。沖縄代表の応援団は「ハイサイおじさん」を演奏し、広島代表は名物のしゃもじを叩き鳴らして応援していた。地図と高校野球はこうやって幼い私の脳内でしっかり交差していた。

そうして地図・地理と高校野球の双方の知識が深まっていくと、「空想高校野球」なるものを想像・創造し始める。


以下、フィクションです。
(※登場する団体、人物、名称などは架空であり、実在のものとは一切関係ありません)

第○○回全国高校野球選手権 代表校
【九州地区】
宗像学院  福岡県宗像市 5年ぶり8回目
弘道西九州 佐賀県唐津市 初出場
琴海学園  長崎県長崎市 3年ぶり20回目
健軍工   熊本県熊本市 2年ぶり33回目
府内    大分県大分市 71年ぶり2回目 
飫肥    宮崎県日南市 4年ぶり11回目 
薩陽館   鹿児島県鹿児島市 2年連続29回目
座喜味   沖縄県読谷村 8年ぶり2回目


ディープな高校野球ファンであれば、この代表校のリストを見るだけでもそれぞれ学校の置かれた状況やストーリーが想像できるだろう。例えば出場回数から考えて、健軍工は熊本工をモデルにしている古豪だろうとか、薩陽館は鹿児島実か樟南のような常連校だろうとか。また大分の地名に詳しければ「府内」というのは大分市中心部の古い呼称であって、府内高校は旧制中学の流れをくむような伝統校の復活、関西学院の復活のようだと言ったことを考える。

さらに、選手の名前を仮に古賀(宗像学院)、百武(弘道西九州)、広瀬(府内)、黒木裕(飫肥)、上之薗(薩陽館)・・・などと設定していくとより地域性のリアリティが深まる。一応説明するなら、宮崎県は黒木姓が多くチームに2人いても不思議ではないし、百武は佐賀特有、広瀬は大分に多いの苗字の1つであり、上之薗は「之」や「薗」を使う苗字は鹿児島に多く、苗字から鹿児島みを感じられる。高校野球と地理、特に人文地理学は密接に関連しているのである。

空想地図や空想高校野球は、大学生、社会人となって各地の地理や歴史、文化などいろいろな事を知ってくると、よりリアリティを空想の中に持たせることができるようになった。こういう空想の高校野球に、事実の地理学的な要素を含ませながら、架空の高校野球大会の結果記事と関連するエッセイ、ショートショートを創作していきたい。そしてもともと自分だけのただの遊びに過ぎなかったものだけど、「刺さる人」に読んでいただければと思い、ひっそりとここで公開していこうと思います。