宮脇俊三

【地理学専攻の読書記録】汽車旅12ヵ月

『汽車旅12ヵ月』は宮脇俊三の鉄道紀行です。
鉄道紀行作家・宮脇俊三の代表作の1つであり、初めて宮脇俊三作品を読む方や、鉄道旅行が好きな方にお勧めできる一冊です。

『汽車旅12ヵ月』の概要

一年間の12ヵ月を、それぞれ月ごとの鉄道旅について書かれている、歳時記風の鉄道紀行です。
1977年10月~翌78年11月まで雑誌『潮』に収録された10篇と書き下ろし3篇の13篇で、
1979年に潮出版社から発売。
1982年に新潮文庫より文庫化され、
2010年1月に河出文庫から再文庫化、
2021年12月にやはり河出文庫から新装版発売されています。

『汽車旅12ヵ月』の著者 宮脇俊三

宮脇俊三さんは日本を代表する紀行作家で、特に鉄道紀行においては多くの名著を遺しています。代表作に『時刻表2万キロ』『最長片道切符の旅』などがあり、いわゆる”乗り鉄”紀行作家の嚆矢と言える作家です。

1926年生まれで、中央公論社の編集者として活躍された後、1978年にデビュー作『時刻表2万キロ』が刊行されています。ですので、宮脇作品は1970年代~1990年代にかけての鉄道旅行の記録が中心となっています。

『汽車旅12ヵ月』のおすすめポイント

 2月 特急「出雲」と松葉ガニ、
 9月 夏の終りとSL列車「やまぐち」号
のように、1つの章が1つの月の旅行の記録となっていて、その月ごとの旅行の楽しみ方や特徴を記してあります。著者の他作品同様に、旅行中の様子が目に浮かぶような丁寧な描写が特徴です。
40年以上前の旅行の記録で、既に廃線となっている路線もあるし、車窓も変わってしっまっていると思われますが、逆に当時の文化人類学的・民俗学的な資料としての価値が出てきていると感じられます。

 鳥取県の倉吉線では山守まで来た記念として、周遊券を持っていて不要にもかかわらず泰久寺までの乗車券を作ってもらおうと車掌とやりとりをする場面や、東京を発車すると名古屋まで停車しない新幹線「ひかり107号」に乗ってしまった熱海が目的地のお客様の事を車掌が演説する場面など、些細な出来事の描写もユーモアを交えてあり楽しく読めます。

『汽車旅12ヵ月』の印象に残ったところ

 とにかく、夏休みに入ると、汽車は混雑するし、しかも暑いから、私のような一人でぶらりと汽車に乗りに出かけたい人間にとっては最悪の季節である。(中略)
 そのかわり、一ヵ月半の禁欲を強いられると思うからであろう、その直前、つまり六月末から七月前半にかけては、比較的ぜいたくな旅行をした年が多い。

本書「7月 みどりの窓口とサロベツ原野」より

 軒に吊るされた干柿も美しい。とくに剥きたてのが壁一面スダレのように下がり、そこに夕陽が映えれば日本風景美の極致となる。干柿は日本中どこでも見られるが、山形や佐賀がとりわけ見事だと思う。干柿を見に旅行にでかけてもよいくらいだ。

本書「11月 上越線と陰陽の境」