『旅の終りは個室寝台車』は宮脇俊三の鉄道紀行で、著者と編集者の10回にわたる旅行の記録です。
『旅の終りは個室寝台車』の概要
『旅の終りは個室寝台車』は1984年に新潮社より発行されました。
『小説新潮』の1982年1月号から1984年7月号にかけて掲載された旅行記です。
1987年6月に新潮文庫から文庫化、
2010年3月に河出文庫からから再文庫化、
2022年6月にやはり河出文庫から新装版が発売されています。
著者・宮脇俊三が、編集者である「藍君」とともに著者らしさあふれる鉄道旅を繰り広げます。表題になっている「旅の終りは個室寝台車」は、掲載されている一連の旅行の1つの主題です。
「乗り鉄」の著者らしい、実に鉄道三昧な旅ばかりですし、今では廃止となった列車も多く、昭和時代の古き良き鉄道旅行の楽しみが味わえます。
『旅の終りは個室寝台車』の著者 宮脇俊三
宮脇俊三さんは日本を代表する紀行作家で、特に鉄道紀行においては多くの名著を遺しています。代表作に『時刻表2万キロ』、『最長片道切符の旅』などがあり、いわゆる”乗り鉄”紀行作家の嚆矢と言える作家です。
1926年生まれで、中央公論社の編集者として活躍された後、1978年にデビュー作『時刻表2万キロ』が刊行されています。ですので、宮脇作品は1970年代~1990年代にかけての鉄道旅行の記録が中心となっています。
『旅の終りは個室寝台車』のおすすめポイント
本書では、著者の一人旅ではなく、編集者の藍君が旅行に同席します。鉄道好きの著者に対して、藍君は「クルマ派」。長旅にうんざりしたり、居眠りをしたり、音楽を聴いたりします。しかし旅慣れてくる後半では、著者にも匹敵するような旅行プランを立てるようになります。
この、藍君の存在が、他の宮脇紀行にはない、本書の特徴であると感じます。
『旅の終りは個室寝台車』の印象に残ったところ
「どうです、汽車の窓から見る白根北岳もいいもんでしょう」
本書 飯田線・天竜下りは各駅停車 より
「中央高速から見るのと同じですね」
クルマ派の藍君との会話が旅行中に挟まります。鉄道好きとそうでない一般の人との感覚や感じ方の違いも面白く読ませてくれます。
「接続列車のご案内を申し上げます。黒松内、倶知安、小樽方面は2時52分、国縫、今金、瀬棚方面は6時41分、いずれも、あすの朝の連絡です」
本書 東京-札幌・孤独な二人旅 より
との車内放送がある。「あすの朝の連絡」とは北海道独特ではないかと思う。
車内の様子も細やかに記録するのは鉄道好きの宮脇氏ならではのもので、当時の記録としても興味深い描写が多くあります。