『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(以下、『弱くても勝てます』)は、
2012年9月に新潮社より発行されたノンフィクションで、
第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞している作品です。
2014年に新潮文庫より文庫化されています。
2014年4月からは『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』という題でテレビドラマ化もされています。
『弱くても勝てます』の概要
東京大学に多くの合格者を輩出する開成高校の野球部の取材ノートのようなルポルタージュです。
超進学校の開成高校の野球部が5回戦まで勝ち上がっている。なぜか。開成高校野球部には、他の野球強豪校とは全く違った、開成ならではのセオリーがありました。
実際に野球部の練習を取材され、監督や多くの選手たちと会話されています。その会話には、開成高校野球部ならではの考え方やセオリーがたくさん詰まっていました。
『弱くても勝てます』の著者 高橋秀実さん
ノンフィクション作家です。2011年『ご先祖様はどちら様』で、ノンフィクションがメインのドキュメント賞である小林秀雄賞を受賞されています。
とても表現が豊かで面白い文章を書かれる方で、他の代表作にはのちに映画化された『はい、泳げません』などがあります。
2005年の開成高校野球部
2005年の夏(第87回全国高校野球選手権 東東京大会)、開成高校は3回戦までをいずれも二桁得点、4回戦も9-5と打ち勝ちます。5回戦で、この大会を優勝して甲子園に出場した国士館に敗れますが、東東京大会で堂々16強入り(参加校数144校)。この年の5回戦敗退は、関東一、二松学舎大付、東海大高輪台などと並ぶ成績となっています。
2005年 第87回全国高校野球選手権 東東京大会 開成の勝ち上がり
1回戦 ○10-2 都立科学技術
2回戦 ○13-3 都立八丈
3回戦 ○14-3 都立九段
4回戦 ○9-5 都立淵江
5回戦 ●3-10 国士館
なぜ開成はここまで勝ち上がる事ができたのか。
もちろん、推薦入試があって、野球部だけは成績と関係なく野球の能力で入学できる、というものではありません。
『弱くても勝てます』はこんな人におおすすめ
誰にでもおすすめしたい本です。
何か面白い本を教えて、とざっくりと聞かれたら、この本をお勧めしても良いかと思う本です。野球に詳しくなくても構いません。読み物としてとても面白い内容になっています。開成高校野球部員の強烈な個性にどんどん引き込まれていく事でしょう。
現役の高校生や野球部員にもお勧めできます。
決して野球の強豪校ではなく、むしろエラーばかりの下手なチームなのになぜ勝てたのか、そのセオリーは、本気で野球に向き合ってきた人ほど、気が付きにくい考え方ではないかと思われますし、開成高校はどうやって野球に向き合っていったか、仮説と検証を繰り返しながら確率を上げる、ひとつの考え方を教えてくれます。
『弱くても勝てます』に出てくる監督の言葉
「一般的な野球のセオリーは、拮抗する高いレベルのチーム同士が対戦する際に通用するものなんです。同じことをしていたらウチは絶対に勝てない。普通にやったら勝てるわけがないんです」
本書より
「つまり、このセオリーには『相手の攻撃を抑えられる守備力がある』という前提が隠されているんです。我々のチームにはそれがない。ですから『10点取られる』という前提で一気に15点取る打順を考えなければいけないんです」
本書より
結局開成は8回と9回にも2点ずつ取って、10-5で青稜高校に勝ったのだが、監督はその試合展開に怒りまくった。
本書より
「これじゃまるで強いチームじゃないか!」
『弱くても勝てます』に出てくる選手の言葉
「守備はやることをちゃんとやればアウトにできるんです。でもバッティングはやることをやってもどうなるかわからないじゃないですか。確率でいえば守備の方は9割9分ですが、バッティングは3割ですからね。このチームだとなかなかわかってもらえないんですが、僕は守備のこの確実な感じが面白いんです」
本書より
「(前略)野球は運動神経がないならないなりにやりようがある。投げ方にしても打ち方にしても、ちゃんと考えることでできるようになる。哲学してるみたいで楽しいんです」
本書より