東北地方は90年代後半あたりから、青森山田(青森)、盛岡大付(岩手)、酒田南(山形)、八戸学院光星(青森)、聖光学院(福島)が次々と甲子園初出場してから常連となり、従来から実績のあった仙台育英(宮城)、東北(宮城)、花巻東(岩手)、鶴岡東(山形)なども練習環境や寮を整備していった。入れ替わるように、練習環境に差がある公立校が甲子園に出る場面は徐々に減っていった、私立と公立の差が開いていった、という話をしました。今回は、その流れに変化の兆しが感じられるという話です。
各県の勢力図を簡単に説明すると、
青森→八戸学院光星、青森山田の2強
岩手→盛岡大付、花巻東の2強を一関学院が追う
宮城→仙台育英、東北の2強
秋田→秋田商、能代松陽など公立の出場がほとんど
山形→主役は酒田南から鶴岡東へ、日大山形も存在感示す
福島→聖光学院1強
秋田以外はほぼ私立高校に甲子園の出場権を独占されています。
秋田はもともと強豪私学が台頭する前から宮城に次いで甲子園での成績が良い県でした。秋田は強豪私学に甲子園を独占されることなく、古くからの勢力図を大きくは変えずに来ています。
※花巻東、酒田南、鶴岡東のように(地名+方角)は公立っぽい校名ですが、上にあげた学校は全て私立です。
秋田を除く東北地区公立校・選手権初戦の実績(2001年以降)
※秋田は異質なので後から見ます
2002年夏 ●仙台西(宮城)1-5川之江
2010年夏 ●山形中央(山形)0-7九州学院
2011年夏 ●古川工(宮城)4-9唐津商
2014年夏 ○利府(宮城)4-2佐賀北
2014年夏 ○山形中央(山形)9-8小松
2015年夏 ●三沢商(青森)3-15花咲徳栄
まず東北地方(秋田を除く)の公立校の夏の甲子園・初戦の実績。
回数自体が非常に少ないです。20年間で6校だけ。残りは全て常連の私立校や県内3、4番手の私立校などが出ています。
秋季大会は、県大会で敗れても3位に入れれば東北大会に進めますし、そこで4強まで行けば選抜出場の当落線上となります。言ってしまうと負けてもチャンスがあるのです。しかし夏は勝ち抜くしか方法はありません。選手権予選では選手層、特に投手層の厚い学校が有利になります。選手層の薄い公立校が勝ち抜いて代表となるにはなかなか厳しいものがあります。
秋田を除く東北地区公立校・選抜初戦の実績(2001年以降)
2001年春 ●安積(福島)1-5金沢 ←21世紀枠
2004年春 ●一関一(岩手)0-6拓大紅陵 ←21世紀枠
2005年春 ○一迫商(宮城)5-2修徳 ←21世紀枠
2009年春 ○利府(宮城)10-4掛川西 ←21世紀枠
2010年春 ●山形中央(山形)4-14日大三 ←21世紀枠
2012年春 ●石巻工(宮城)0-5神村学園 ←21世紀枠
2013年春 ○山形中央(山形)6-2岩国商 ←東北絆枠
2013年春 ●いわき海星(福島)0-3遠軽 ←21世紀枠
2016年春 ○釜石(岩手)2-1小豆島 ←21世紀枠
2017年春 ●不来方(岩手)3-12静岡 ←21世紀枠
2020年※交流試合 ●磐城(福島)3-4国士館 ←21世紀枠
2021年春 ●八戸西(青森)3-8具志川商 ←21世紀枠
2021年春 ●柴田(宮城)4-5京都国際
2022年春 ●只見(福島)1-6大垣日大 ←21世紀枠
続いて春。
ほとんどが21世紀枠。秋季東北大会で頑張れば、県大会で3位でも甲子園出場の可能性がある、とは言っても、東北大会でも立ちふさがるのは他県の私立校。私立の壁を破って甲子園の切符を掴むのは至難の業なのです。
一般枠では2000年春の福島商の後、2021年の柴田まで公立校が一般枠では出場できなかったのです、秋田県勢を除いたら。しかし、柴田は一般枠で選抜出場を勝ち取りました。
柴田高校は、公立校ですが体育科があります。地域の協力で運営されている寮があり、野球に取り組む時間が比較的多い学校です。選抜では初戦で敗れはしましたが、延長にもつれ込み一打サヨナラの場面まで作った大熱戦の末の惜敗でした。
一迫商、利府も勝利しているように、宮城県勢は仙台育英や東北を日頃から意識しているでしょうから、全国に出ても通用する公立校はあると思われます。柴田が一般枠を勝ち取り、甲子園でも好ゲームを展開した事は、他の公立校に勇気を与えるものでした。
※春夏を通じて、2回初戦突破をしているのが利府と山形中央。利府と山形中央だけが(秋田勢を除いて)公立校で気を吐いていると言えます。利府と山形中央はどちらも柴田と同様で体育科があります。21世紀枠出場をきっかけに実力で甲子園を勝ち取る力をつけて、実際に甲子園でも初戦突破しています。お見事です。
そして、気になる秋田県の公立校・甲子園での初戦の実績です。
(2001年以降)
2001年夏 ●金足農4-8如水館
2002年夏 ●秋田商1-17尽誠学園
2003年夏 ●秋田2-3天理
2004年夏 ●秋田商8-11済美
2005年夏 ●秋田商6-8遊学館
2006年夏 ●本荘5-7天理
2007年夏 ●金足農1-2大垣日大
2008年夏 ●本荘3-4鳴門工
2010年夏 ●能代商0-15鹿児島実
2011年夏 ○能代商5-3神村学園
2012年夏 ○秋田商8-3福井工大福井
2013年夏 ●秋田商0-5富山第一
2014年夏 ●角館1-6八頭
2015年夏 ○秋田商3-1龍谷
2016年夏 ●大曲工1-6花咲徳栄
2018年夏 ○金足農5-1鹿児島実
2019年夏 ●秋田中央0-1立命館宇治
2022年夏 ●能代松陽2-8聖望学園
2004年春 ○秋田商10-0鳴門工
2006年春 ○秋田商11-10東海大菅生
2010年春 ●秋田商0-2北照
2011年春 ●大館鳳鳴0-8天理 ←21世紀枠
2015年春 ○大曲工4-1英明
2018年春 ●由利工0-5日大三 ←21世紀枠
2023年春 ○能代松陽3-0石橋
※2013年に能代商と能代北が統合して能代松陽として開校。高校野球では同一校の実績として扱います。
2001年以降、私立校は明桜(2007年に秋田経法大付から改称)が春夏計4度出ているのみです。ほとんどは公立校が甲子園出場を勝ち取っています。他県とは違って、いくつかの公立校が代表を奪い合っている、90年代以前から変わらない勢力図です。
選抜を含めると、2004年、2006年と秋田商が初戦を突破(どちらも2勝して8強進出)していますが、夏に限ると実は1998年から2010年まで初戦13連敗していました。
2010年夏に能代商が鹿児島実に23安打を浴びて0-15の完敗。その翌年に、2年連続出場の能代商が同じ鹿児島代表の神村学園を破って長いトンネルを抜けます。前年にも先発して2回途中でKOされた保坂投手の完投でした。能代商は次戦で英明を破り、3回戦で敗れたものの如水館と延長12回の熱戦を戦いました。これに刺激を受けたように、ここから秋田は勝率を上げていきます。
2011年は震災の年ですが、それ以降は勝率が5割あります(私立の明桜の初戦実績も2011年以降は1勝1敗)。なかなかすごい事だと思います。
2018年には金足農が横浜、近江、日大三らを破って準優勝に輝き、そして2023年春の能代松陽。初戦の石橋に快勝し、2回戦で大阪桐蔭と投手戦を演じ、0-1の惜敗だったものの、本気で大阪桐蔭に勝とうとぶつかって散ったチームでした。
秋田勢は暗黒の2000年代を抜け、全国でも十分に渡り合っていた秋田に着実に戻ってきて、それを象徴するような試合を大阪桐蔭相手に能代松陽が見せてくれました。
少子化の影響もあり、特定の学校に選手が集まりやすくなり、特定の学校だけが甲子園に出場する。そういった傾向が強まる中でも利府、山形中央、柴田、能代松陽・・・こういった学校が公立校でもやれるという姿を見せる。ひとつの学校のひとつの勝利が、その気持ちが次の世代へと引き継がれているのを感じます。